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カヌースプリント競技の安全対策(4)

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筑波大学近藤様寄稿記事。前回からの続き:No4 カヌースプリント競技の安全対策
著者:近藤許仁(筑波大学・体育専門学群)内容に関する問い合わせ先:田神一美(筑波大学・体育系教授・スポーツ衛生学研究
室)
イラスト:ぬまくろ
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カヌースプリント競技の安全対策(その2-1:概要)

考察
本研究ではカヌースプリント、ボート競技の事故がどのような要因で発生してきたかについて、過去の事例に対する安全対策の状況からそのあるべき姿を探った。
カヌースプリントとボートではどちらがより危険か?
この問いかけに対して厳密な答えを我々は持っていない。それは、リスク評価可能な根拠となるデータを持っていないからである。
公表されている事故件数や死亡者数から分かることは、当該年に何件の事故が起きて何人が亡くなられたかを表しているに過ぎない(表2)。
こうしたデータの背景には、ボート人口やカヌー人口があり、事故リスクに直面する出艇(練習)時間があるはずである。
各連盟の登録者数を調べさせていただいた結果は、図2のとおり漕艇協会の加盟者数は、カヌー連盟の約4倍で推移していることが分かる(各協会調べ)。
tsuku data03 - カヌースプリント競技の安全対策(4)が、活発な活動をしている某大学漕艇部では、年間600時間に及ぶ活動をしているとの情報がある。
1年を50週間、週5日間活動していると仮定すると毎日2時間を艇上で過ごしている計算になる。
件数と犠牲者数が分かっている1981年から1990年までの10年間に発生したボート・カヌー事故を下の表4にまとめてみた。
件数と犠牲者数の数値だけ見るとボートの方が3倍から5倍も危険なスポーツであると思わせる数字が並んでいるが、10万活動時間という母数を揃えて比較することによって、様相はガラリと変わってくることが分かる。
この数値から分かることは、死亡者が出るような事故が発生する割合は、ボートの方が10倍大きいけれども、実際に死亡に至る割合には両種目間に大きな相違は無いということである。
表4 10年間(1981年から1990年まで)の事故件数と犠牲者数
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件数
犠牲者数
年間登録活動者数(人)
乗艇活動時間  (時間/年)
事故発生率/10万活動時間
死亡事故発生率/10万活動時間
ボート
11
15
8,000
600
2.30
0.31
カヌー
3
3
2,000
600
0.25
0.25

ボートは目視で安全確認ができにくい方向に全速力で進まなければならない種目であることを考えれば、事故発生率が高いことに合点がいく。
これは、漕路の安全確保が何にも増して重要であることを暗示している。
一方のカヌーでは、事故発生率は低いけれども、起きてしまった事故は重大となることを示している。
単独行動を極力制限すると共に、気象や水と言った環境への適応を支援する装備の充実によって生存率を高める必要があることをこうした解析は示唆しているように思われる。

環境要因
ボート事故事例では悪天候などの環境が最大の要因となっていた。
ボート事故時の最大風速は、すべて風速10m/sec以下で発生しており、カヌー競技の「10分間の平均がおおよそ10mを越える場合、水面の利用制限の目安とする」という設定は、筆者にはゆる過ぎると感じられる。
風の影響は水域によって大きく変わり、例えば高い堤防に囲まれた場所では風の影響が少なく、かなり強い風が吹いても波が立たない。
逆に開けた場所や海などでは多少の風でも危険に感じられはずである。図3は平成20年度全国高体連カヌー専門部加盟校98校の練習水域を示している3)
各学校がさまざまな水域で練習しているため、固定のルールによる安全確保は難しいかもしれないので、全国一律の基準と水域にあわせたルールの併設を検討すべきであろう。
高等学校のカヌー練習水域
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図3. 高等学校のカヌー練習水域(高等学校におけるカヌー競技の実態調査)

低水温要因が次に多い。
低体温症は深部体温が35℃以下になると起こり、図4が示すように水温が低ければ低いほど死に至るまでの時間は短くなる。
カヌー競技では水温に関して特に規制はないが日本ボート協会では、水温10℃未満の場合には舵手が救命具を着用しなければならないと定めている。
カナダのSprint Safety Codeでも水温8℃以下の場合には、18歳未満の者はライフジャケット着用、18歳以上でも着用が推奨されている。
図4では10℃1時間で50%致死と表示されているが、動けなくなるのはもっと早いことが予想されるため、ライフジャケット無しでは水没の危険があると考えられる。
水温が低い時には水域の安全性が低下すると考え、救命胴衣や救助艇、ウェットスーツの着用などの対策を取る必要がある。
図4から考えて、カナダの8℃という設定は低すぎるように感じるので、カヌーでも「10℃以下の場合は必ず救命胴衣を着用しなければならない」などの基準を作る必要がある。
カナダのSprint Safety Codeでは、ライフジャケット着用を拒否する場合は冷水条件免除(免責同意書)への署名を求めているが、これは日本では通用しない可能性が高い。
民法第九十条では「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」と定められており、死亡事故や大けがに対して過失があった場合には免責同意の効力が無効になる。よって、書面を作成するのであれば、「参加者はクラブが定める安全対策を順守する」などの内容にするのが妥当と考える。


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※スマホで閲覧の方など、グラフ等が見ずらい場合はPC版に切り替えてご覧ください。
著者:近藤許仁(筑波大学・体育専門学群)内容に関する問い合わせ先:田神一美(筑波大学・体育系教授・スポーツ衛生学研究室)
第5回へつづく

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